大胆不敵な
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



年の初めの一月、睦月も、
ここまで過ぎれば
もはや“初”だの“新”だのくっつけるのも白々しいほど、
ごくごく日常へと落ち着いており。

 「学校だってとっくに始まっておりますし。」
 「でも慌ただしいには違いありませんわ。」

いつもの女学園も、
三年生のお姉様たちのうち、学外への受験を控えておいでの方々は、
そろそろ受験も本番となるがため。
難しいお顔をなさっているのが見受けられるし、

 「持ち上がりで短大へ進まれるにしても、
  この学舎からは巣立っていかれるのですから、
  何かと感慨も深い頃合いでしょうしね。」

 「…、…、…。(頷、頷、頷)」

なぁんか白々しいとか、
本来だったら彼女らがその年に相当するんじゃあ
とかいう話題は、
いつも通り どうか見なかったという方向で。(あはは…)

 「そして来たる二月と言えば!」

清楚なセーラー服のまま、
アノ星ヲ見ヨとばかり、
立てた人差し指にて天井を差しての、
それは勇ましい直立姿勢となったお友達だったのへ、

 「豆まきですか?」
 「恵方巻き…。」

即答には違いなかったものの、
片や、お箸の先を咥えたまんまのほほんと応じた白百合さんと、
それならばと、やはりお暢気な連想を口にした紅ばらさんだったものだから。
おいおい、あんたら本当に年頃の女子高生ですか…とくれば、
佐々木倫子さんの“美人姉妹”シリーズでしたね。(笑)
余談はともかく、
どこのご隠居さんですかいという渋いお答えが飛び出したのへ、

 「バレンタインデーですよ、バレンタインデー。」
 「あ…。」
 「…っ。(そか。)」

こんの世間知らずなお嬢さんたちはもうもうと、
ややもすると憤慨満面、
焼き海苔でくるんだおむすびを振り回したひなげしさんだったのも無理はなく。
判った判った・ごめんごめんと、
あとの二人が手を延べての制すような所作で宥めにかかるところは、
まま、どこの女子高生とも大差のない、無邪気さとお茶目さかも知れずで。

 「まったくもう。
  巷じゃあ、今年の流行のフレーバーは?
  可愛らしい装丁は?って話題に沸いてるってのに。」

しかもしかも、ここは女子校だから…なんてのは理由にはならぬ。
意中の男性へというのじゃあない、
同性のお友達へのチョコ“友チョコ”が、
変わりだねとして話題になるよりずっと前から、
ここじゃあ珍しくもない自然な風習として根付いてもいて。

 「主には、下級生から上級生へって形のものが多数ですが。」

憧れのお姉様へってやつでしょうねと、
三つ目のおむすびへぱくつきつつ うんうんと頷く、
情報通のひなげしさんこと、Prof.林田の秘蔵っ子・平八嬢なのへ、

 「中等部からの持ち上がりな方々の間で…ってのは判りますが。」

何ででしょうかね、アタシも貰いましたよ、去年…と。
いきなり微妙な発言をしてくださったのが、(あっはっは…)
白百合さんこと草野さんチの七郎次お嬢様ならば。

 「人気投票」

みたいなもんらしいと、
ウサちゃんフォークの先から逃げ回る里芋を
待て待てと重箱じゅう追っかけているのが、
紅ばらさんこと三木さんチの久蔵お嬢様。
ちなみに、
それで言うなら昨年のチョコレートの総数のベスト3、
この三人娘で競ったのは言うまでもなかったり。

 「……開き直りましたね、もーりんさん。」

うっさいなぁ。////////
そうした張本人なんだもん構わないでしょう?…と
少々捨て鉢な筆者はともかく。(う〜ん)

 「バレンタインデーをおろそかにするつもりじゃあありませんが、
  その直前に…あのその、
  アンテナ張ってたい日があるんですよね。///////」

小ぶりな紙パックの焙じ茶をストローにて飲みながら、
やや目線を逸らし気味となった白百合さんで。
おやや? お嬢様にしては気っ風のいい彼女にしては
何とも歯切れの悪いことよと、
平八が小首を傾げたその横合いから、

 「“愛妻の日”がある。」
 「…あ、ってあれ?」

ああそういえばそんな話をしてましたねと、
まずはそこへと 十代の反射でそりゃあ素早くピンと来た平八が、だが、

 「それって先月じゃなかったですか?」

日本語の語呂合わせって面白い、と。
確かそんな印象を受けたのは、
けどでもクリスマス前の話じゃあなかったかと。
あれれぇと、そのまま小首を傾げた彼女だったのへは、

 「12月3日と1月31日にあるのだ。」

そうは見えない凛々しさながら、自分も恋する乙女だからか。
それとも…気の利かないあの壮年に
微妙に振り回されてる七郎次なのが気の毒と、
“元・次男坊”だったこれも一種の後遺症か、
我が身は置いといても ついつい気になってしまう久蔵殿が、
こそりと小声で付け足してやり、

 「聖バレンタインデーのように、
  こちらから動くことではないからな。」

 「お……。」

心から愛しいお人がいるにはいるが、
当然のことながら、まだまだ“妻”なぞではありえぬ間柄。
とはいえ、先では添い遂げたいとまで想いを寄せている相手なのだ、
妻とか伴侶とかいうフレーズへ、
ついつい過敏になってしまってもしようがない…という、七郎次の心情は
久蔵のみならず、平八にだって想像しやすい代物で。

 “ましてや、
  それはそれは素敵な殿方だと思い込んでるお相手ですものねぇ。”

あのロン毛の壮年警部補殿、
確かにパッと見、なかなかのイケメンであるには違いない。
様々な苦汁を舐めての苦悩から彫が深まったものか、
精悍な目鼻立ちに締まりがあり。
現場が長いせいだろう屈強な肢体をし、
馬力もあって、動きは機敏。
判断力に長け、機転も利いて瞬発力もあり。

  そしてここが一番の問題。

仕事へは老獪なまでに周到、
なのに自身の世渡りへはとことん要領が悪く。
どうにも損ばかりしているところが、
七郎次にしてみれば“相変わらずな可愛げ”と映るのだそうな。

 “可愛げってのは何でしょうかね。”

かつての前世の“彼”だったなら、
そうまで上から目線で評しはしなかったんじゃあなかろうか。
でも、だが、

 “…まま、判らないではないですがvv”

大人を捕まえて、不器用なところが可愛いなんてな生意気を思う。
そんなところこそ、
今の自分たちが“女子高生”ならではの感覚なのだろなと、
思わないでもない平八だったりする。
他人の話なればこそ、一歩引いての冷静な解析も出来るもの。

 「………で?
  その愛妻の日に、
  あの警部補殿はどんな反応してくれそうなんですか?」

 「それがな…。」

紅ばらさんと こそりと交わした情報交換によれば、
こういう記念日へ七郎次がそわそわするそもそもの元凶は、
あの佐伯さんのフォローだろう、
小さな花束だのストラップにつけるチャームだの、
他愛ないもの、時に1日遅れとなりもしつつ、
それでもちゃんと届けるところが却って罪なのらしく。

 「それへの裏付けというか、
  辻褄合わせはちゃんと出来てるんでしょうかね?」

 「〜〜〜〜。」

さてなという意味だろう、
肩をすくめ、やっと捕まえた里芋をまじまじ見やった久蔵だったが、

 「シチは寛大だからな。」
 「はい?」
 「だから。」

可愛らしいおちょぼ口な割に、
大胆にも大口開いて食べる健啖家でもある紅ばらさん。
今も里芋さんを1口で迎え入れ、
もごもごと噛みしめつつ続けたのが

 「シチは、シマダの失態さえ愛しいらしいから。」
 「……ああ、そういう意味ですか。」

あばたもエクボ。
うっかりしていても、思い違いをしていても、
こういう方向へ周到になれぬ彼だってのには
昔っからの慣れがあるからと。
女子高生の七郎次にしてみれば、
そこもまた“可愛いvv”という反応になるようで。

 “難儀なことですよね、まったく。”

やれやれと言いつつも口許は微笑っておいでのひなげしさん。
経験の足りなさからか、それともこれも夢見がちなせいだろか。
無鉄砲や大胆さでもって、
軽やかに駆けてくお嬢さんたちなのは変わらない。
もしかして世界は彼女たちが回しているのかも知れないと、
こそり思ってる顔触れが幾たりか。
どこかで苦笑しているやも知れぬ、
淡い霞のかかった水色の冬空の下……。





   〜Fine〜 12.01.29.


  *危険な事態へも、大好きな恋人さんへも、
   無邪気なんだか最強なんだか。
   それは どのお嬢さんにも言えることだと思いますvv

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